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組織文化に合った評価制度

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医療機関における人事評価制度は、単なる人材査定のツールではありません。組織が目指す姿を職員に示し、文化を形成する経営戦略のひとつです。設計次第で、職員間の信頼関係やチーム医療の質を大きく左右します。

本記事では、評価制度が組織文化に与える影響、医療現場特有の課題と解決策、持続的な成長を実現する制度設計の要点を経営的視点から解説していきます。

医療機関における人事評価と
組織文化の関係性

医療機関における組織文化の考え方や、人事評価制度が医療現場に与える影響、諸刃の剣となる人事評価制度の手法などを解説します。

医療機関における組織文化とは?

組織に根付く共通の価値観、信念、行動規範の総体です。クリニックや病院のミッション(存在意義)やビジョンを源流とし、職員一人ひとりが「どう振る舞うべきか」を判断する際の基準や行動指針になります。

命と向き合う医療現場では、患者への接遇姿勢、職種を超えた連携のあり方、インシデントへの向き合い方などに、その組織ならではの文化が色濃く反映されるのです。

人事評価制度が医療現場に与える影響

人事評価制度は、職員に「何を期待されているのか」を伝える手段として、行動や成果の基準を明確にする役割を担います。公平で納得感のある評価制度は、医療組織の信頼関係を築くうえで欠かせない土台のひとつです。

例えば、個人の実績のみを評価すれば、個人商店の集合体のようなドライな風土が育ち、部門間の連携は希薄になる傾向にあります。チームへの貢献度や後進育成といった項目を評価に盛り込めば、互いに支え合う協調的な文化が醸成されるでしょう。

目標管理型・成果主義型評価が
もたらす変化

目標管理(MBO)や成果主義評価は、職員の自律性や目標達成意欲を刺激する有効な手法です。一方で、結果のみを追求するあまり、医療の質を支える丁寧なプロセスやチーム内の協働が軽視される懸念があります。

特にチーム医療が不可欠な現場では、個人の成果とチームの成果、短期的な目標と中長期的な目標など、複数の軸をバランス良く評価する人事評価制度の設計が求められます。

医療機関における
組織文化の変化とその背景

医療機関の組織文化がどのように変化しているのか、人事評価制度の見直しによってどのような効果が期待できるのか、人事評価制度の戦略的役割を深掘りします。

医療組織は縦割りからチーム医療へ変化

「医師-看護師-その他コメディカル」という縦割りの関係性は過去のもの。医療組織は「連携」を是とする文化へ進化しています。現代において、質の高い医療を提供するためには、カンファレンスでの活発な意見交換や、職種を超えた情報共有が不可欠です。

人事評価制度は、そんな組織文化の変化を加速させる役割。「チーム目標の達成度」や「多職種連携への貢献」といった項目を明確に位置づけることで、個人の専門スキルだけでなく、チームプレーヤーとしての姿勢を評価できるようになります。

人事評価制度は
医療の安全性向上にも寄与

医療の安全性向上を図るには、インシデントやヒヤリハットを個人の責任問題とせず、組織の学びとして次に活かす心理的安全性の高い文化の醸成が欠かせません。

評価制度に360度評価(多面評価)などを導入し、建設的なフィードバックを奨励することは、その文化を育むための重要な一歩です。風通しの良い対話が日常化すれば、問題の早期発見・共有が促され、組織的なリスクマネジメント体制の強化に直結します。

エンゲージメントや
定着率の向上にも貢献

医療機関の管理職はプレイングマネージャーが多いため、部下とのコミュニケーションが不足しやすい傾向。信頼関係を構築できなければ、組織への信頼感が薄れ、離職リスクが高まる恐れがあります。

だからこそ、定期的な1on1ミーティングを「評価プロセスの仕組み」として組み込む意義は大きいでしょう。評価のためだけの面談ではなく、キャリアの悩みや業務上の課題について対話する場を設けることで、上司は現場のリアルな情報を得られ、部下は組織への貢献実感を得られ、エンゲージメントが高まります

人事評価制度が医療機関に及ぼす影響

人事評価制度は、職員の意欲を最大化するアクセルになりますが、運用を誤れば、不信感や組織の停滞を招くブレーキにもなり得ます。評価制度が組織に及ぼすポジティブな影響とネガティブな影響、両面を把握しておきましょう。

評価制度が医療機関に及ぼす
ポジティブな影響

評価基準やプロセスがオープンであることは、職員の納得感とエンゲージメントを高める上で不可欠です。「どのような行動が評価に結びつくのか」が明確であれば、職員は自律的に成長目標を立て、日々の業務に邁進できます。

評価基準に組織の理念が反映されていれば、理念浸透の強力な推進力となるでしょう。「貢献が正当に認められる」という実感こそが、医療の質を支えるプロフェッショナルたちの働きがいを醸成します。

評価制度が医療機関に及ぼす
ネガティブな影響

曖昧な基準や評価者による恣意的な運用は、組織の活力を根本から蝕む経営リスクに直結します。「何を言っても変わらない」という諦観を生み、職員がリスクや改善点を口にしなくなる「沈黙の文化」を招くためです。

気づかず放置すれば、医療過誤の隠蔽コンプライアンス違反のリスクが高まります。特に、高い志を持つ優秀な人材ほど、不公正な環境に見切りをつけて離職する傾向があります。

組織文化を育む
人事評価制度設計の戦略的工夫

人事評価制度の評価項目やプロセス、運用スタイルに戦略的な工夫を凝らすことで、信頼と協働を軸とした健全な組織文化を構築できます。ここでは、具体的なアプローチを解説します。

チーム医療を推進する定性評価項目

組織全体の連携を強化するには、「定量評価」だけでなく、理念の実践度やチームへの貢献といった「定性評価」を重視することが大切です。

例えば、「患者家族への丁寧な説明姿勢」や「他部門への積極的な情報共有」といった、数値化しにくいものの極めて重要な行動を評価項目に設定します。これにより、個人プレーに走ることを抑制し、互いに助け合うチーム医療を推進する風土が醸成されるでしょう。

評価を多角化する自己評価・
ピアレビューの導入

上司による一方的な評価は、現場の認識とギャップが生まれやすく、不満を生む原因になり得ます。そうならないよう、職員自身による「自己評価」や、同僚間でフィードバックを送り合う「ピアレビュー」を導入し、評価を多角化すると良いでしょう。

職員は自らの働きを客観視して、成長課題を主体的に捉えるようになるほか、互いの仕事に関心を持って称賛し合う文化が生まれます。その結果、現場の納得感とエンゲージメント向上につながるのです。

継続的な改善を促す職員参画型の運用

人事評価制度は、導入後も組織の成長に合わせて改善し続ける必要があります。そのプロセスに、現場の職員を巻き込んで運用することが大切です。

各職種から代表者を集めた制度改定プロジェクトを発足させたり、定期的なアンケートで意見を募ったりすることで、制度はより現場の実態に即したものへと磨かれます。「やらされる評価」から「自分たちで創る評価」へと意識が変わったとき、人事評価制度は組織文化を変える本物のエンジンとなるのです。

医療機関における
ピアレビューの導入事例

同僚間でフィードバックを送り合う「ピアレビュー」を導入し、自律的な組織文化を醸成したクリニックの事例を紹介します。

優秀な職員が孤立しない仕組みを構築

課題:
成長意欲のある職員が能力を発揮できない

常時10名以下という少人数体制のため、個人のネガティブな影響がチーム全体に波及しやすい構造でした。職員の派閥があり、いじめに近い問題も起きていたのです。成長意欲のある職員が入職しても能力を発揮できず、1年も経たずに退職してしまうのが課題でした。

この課題を解決するため、おおたきく子クリニックは人事評価システム「DoctorHR」を導入。職員同士が互いに評価・フィードバックする「360度評価」という機能を活用しました。

成果:
自律的な組織文化を醸成することに成功

職員間でポジティブなフィードバックを伝え合うようになった結果、指示待ちではなく、自ら考えて行動する組織文化が醸成されました。象徴的なのは、受付スタッフが評価項目をヒントに、自発的に新人教育用のチェックリストを作成した事例です。評価への当事者意識が高まったことで、職員から自発的な改善提案や行動が見られるようになりました。

※参照元:DoctorHR(https://doctor-hr.com/voice/147/

組織文化に合った評価制度で
押さえておきたいこと

医療機関の人事評価制度を設計する際は、目先の業績評価にとどまらず、「自院はどのような組織でありたいのか」という理念やビジョンと固く結びつける視点が欠かせません。

「一方的な査定」ではなく、「対話と納得」を重視したプロセス設計が成功の鍵です。具体的には、定性評価を重視する、自己評価やピアレビューを導入する、職員を巻き込んだ継続的な見直し体制を構築するなどのアプローチが推奨されます。

最終的には、「評価されるからやる」という動機付けから脱却することが大切。人事評価制度を通じて、成長と貢献を実感できる職場環境の実現を目指しましょう。チームが同じビジョンを共有し、信頼関係が醸成されたとき、医療品質や患者満足度の向上という成果につながります。

人事評価システムは
自院の目的に適ったものを

「スタッフの頑張りを見える化したい」「主観的な評価から脱却したい」――。クリニック・病院で人事評価を導入する目的はさまざまです。

当メディアでは、制度づくり・マネジメント・評価データの活用という3つのフェーズに合った「医療向け人事評価システム」を厳選紹介。自院の目的に合った人事評価システム選びの参考として、ぜひご活用ください。

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